2007.12.12
「ダム論」(死語)の論理破綻-日銀・政府の焦り
「ダム論」とは、ゼロ金利解除時に日銀が主張した景気回復スキームです。企業の業績回復により、雇用・賃金上昇を通じて家計の所得を増やし、それが消費の増加となり、景気が拡大するという循環メカニズムのことを言います。「ダム論」は既に死語になりつつありますが、ここに至って当の日銀自身から、自ら提示したモデルの破綻を示唆する発言が出始めました。
日銀は企業から家計への波及機能低下を懸念
日銀は、足元で企業から家計への波及メカニズムが働いているのかどうか懸念を強めている。原油高や建築着工の遅れなどの要因が中小企業を中心に収益を圧迫、所得が伸びない状況を招いており、経済の前向きの循環が働き続けるのか不透明感が強まっているためだ。日銀は12月短観の結果も踏まえ、19、20日の金融政策決定会合で米経済減速や改正建築基準法の影響、資源高などコスト上昇の影響を丹念に分析。前向きの循環メカニズムが回復して「緩やかな景気拡大が今後2年間継続する」という展望リポートの基本シナリオが維持できるか、根本から議論する見通しだ。2007年7─9月期国内総生産(GDP)統計では、雇用者報酬が前期比0.2%減となった。今年に入ってから、ならしてみれば「所得の伸びはほぼゼロ」(複数の幹部)となっている。これまで賃金は低下傾向ながらも、雇用者増加を背景に緩やかながら雇用者所得は、全体として増加しているというのが日銀の見方だった。だが、GDPのデータを見ると所得全体として伸びが止まったことを示している。福井総裁が名古屋で「循環メカニズムにおける所得部分に問題が生じている可能性がある」と言及したのをはじめ、幹部の間でも「メカニズムが一時的に停止しているようだ」との認識が示されている。複数の幹部は、展望リポートの中間評価を行う1月会合までに、この点についてきちんと議論する必要があるとしている。今のところ、一時的に家計への波及が停止したとしても「長期的にみれば、メカニズムが元に戻るだろう」というのが大方の見方だ。来年にかけ労働需給のタイト化を反映して、来年春のベア引き上げで家計部門への波及が回復するのかどうか、あるいは世界的な不透明感の強まりで企業が一層慎重化するのかどうか、賃金動向がこの先の景気動向を大きく左右することになりそうだ。日銀がここまで景気認識を悪化させた背景には、中小企業を中心に賃金が上昇しない現象が予想以上に長引き、改正建築基準法による建設投資への影響も長期化する様相となり、中小企業や地方経済に下押し要因が重なっているということがある。当初、日銀では団塊世代の引退の影響がピークを越える秋以降に、賃金上昇によって物価が緩やかに上昇する基調に転じるとみていた。だが、10月全国消費者物価指数(CPI)が上昇に転じたものの、主因はエネルギー高であり「賃金が上がって物価が上がったといえるメカニズムを示すデータが見当たらない」(複数の幹部)という状況だ。来年春のベアも、世界経済の不透明感の強まりから企業が慎重姿勢を強める可能性もあり、賃上げに強い期待が持てる状況とも言えない。米サブプライムローン問題による外需面からの影響も不安材料だ。今のところ日本経済への影響は明確に現れているわけではなく「リスク要因」にとどまっている段階。新興国やアジアを中心に輸出はむしろ予想を上振れている状況だ。しかし、米経済の減速がここから強まれば新興国経済も減速を余儀なくされ、日本の輸出も影響を受けると日銀は見ており「デカップリングはありえない」(出沢敏雄国際局長)との発言も聞かれる。UBSが100億ドルの追加損失を発表したが、投資家からの資本注入を好感して金融市場はポジティブに反応した。同時に他の米金融機関の財務状況も不透明感が強まっており、年末の流動性確保をはじめ、来年に入っても財務状況から目が離せないと日銀はみている。海外要因に加え、国内の循環メカニズムが崩れる懸念が増大すれば、これまで国内景気は堅調として利上げ提案を行ってきた水野温氏審議委員の利上げ提案行動や、利上げ継続に前向きな発言を繰り返してきた福井俊彦総裁の発言トーンも変化する可能性がある。(ロイター12/12)
元々は、
◆「企業業績回復 → 給料上昇 → 消費増」
でしたが、いつの間にか
◆「企業業績回復 → 雇用者所得の増加 → 消費増」
にすり替わっていました。個々人の給料が減少しても雇用者数が増えており、日本国全体での給与総額が増えているからいいじゃないか、という理屈です。実態は、賃下げによる家計苦から低賃金パート労働へ従事せざるを得ない世帯が激増したのが真相だと思います。その頼みの綱の雇用者所得も7─9月期GDPで雇用者報酬が減少に転じたことで、「マネーが企業から家計へ波及する」論拠を失ってしまいました。「長期的にみれば、メカニズムが元に戻るだろう」と言う当たりがせめてもの抵抗なのでしょう。
ダム論の現実
まず、日本企業のうち黒字企業は3割に過ぎません。黒字法人は、バブル崩壊前は5割でしたが、平成14年度には30.3%まで下落しました、平成18年度でも32.4%に過ぎず、業績回復した企業はごく少数に過ぎません。その少数の業績が回復した企業も、大部分の中小企業は、
◆「企業業績回復 → 借入金返済(まだ途中)」
でしょう。業績の回復・拡大が著しい大企業は、
◆「企業業績回復 → 投資(主に中国等新興国) → 新興国の所得拡大 → 新興国の消費増 → バブル?」
となり、新興国の所得拡大と消費増に貢献してしまいました。中国では毎年2桁の賃金上昇が続いております。企業単体の経営判断としては正しいのですが、日本国全体では明らかにマイナスでしょう。新興国の旺盛な消費意欲が、賃金デフレの日本の家計に生活必需品の急騰をもたらしたことになり、何とも皮肉な結果です。
政府の対応
流石に政府は、日銀のように理論通りに行かないからと言って安穏としてる訳にはいきません。賃金下落により、ワーキングプア層の増大・所得格差拡大・中流層の下層化という日本の社会が質的に崩壊している状況を、いつまでも「痛みに耐えろ」の一言で済ますわけにはいかないでしょう。景気動向を察知しているのか、慌てて手を打ち始めています。改正最低賃金法が成立 ワーキングプア解消狙う
低賃金の引き上げを図る最低賃金法改正案と労働契約の基本ルールを定めた労働契約法案が、28日午前の参院本会議で賛成多数で可決、成立した。民主党は当初、両案に対案をぶつけて対決姿勢を強めていたが、衆院で与党との修正協議を経て、賛成に転じていた。改正最低賃金法は、生活保護以下の収入しか得られないワーキングプアの解消を目指し、最低賃金を決める際、「生活保護に係る施策との整合性に配慮する」ことを明記。修正協議で「労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう」との文言も加わった。最低賃金未満で働かせた企業への罰則も、労働者1人あたり「2万円以下」から「50万円以下」に引き上げる。労働契約法は、採用や解雇などのルールを明確にし、労働者個人と企業との紛争を抑えることを狙う。修正協議では、非正社員の待遇を改善するため、労働契約を「就業の実態に応じて均衡を考慮しつつ締結する」との原則も加えられた。(朝日新聞11/28)
この改正により最低賃金が1割ないし2割程度上昇しますが、低所得者を雇用しているのは零細企業が多く、効果は限定的でしょう。また同法の根拠として生活保護との逆転を問題視した手前、生活保護費の減額を行おうとしましたが、これは経済対策の観点から見れば明らかに愚策です。流石に現状維持で決まったようです。
生活扶助基準額は現状維持 生活保護費で政府方針
政府・与党は9日、平成20年度から引き下げを検討していた生活保護費のうち、食費や光熱費など基礎的な生活費となる生活扶助の基準額について、見送る方針を固めた。ただ地域間の基準額の差を実態に合わせ縮小するなどの微修正は行う。生活保護費全体の総額は維持される見通しだ。生活扶助基準額をめぐっては、厚生労働省の有識者検討会の報告書に基づき、20年度から引き下げが有力視されていたが、格差問題がクローズアップされる中、野党の反対は根強く、与党内からも「引き下げでは国民の理解が得られず、次期総選挙を戦えない」との声が広がっていた。検討会の報告書によると、基準額が、単身世帯を中心に、生活保護を受けていない低所得世帯の生活費を上回った。また、地域間の物価差などをもとに定められている基準額の地域差も、実態より大きいことが分かった。厚労省は「勤労意欲を減退させかねない」として、実態に合わせて来年度から基準額を引き下げる方針だったが、最低賃金の底上げに逆行するなど影響が大きく、野党だけでなく与党内からも疑問の声が続出。福田康夫首相も「政府部内や政党での議論を見て判断する」と述べ、引き下げを慎重に判断する考えを示していた。(産経新聞12/9)
生活保護世帯は、給付がほぼ全額消費となりますので、減額して財政負担を減らしても、同時に消費も減少するので経済的には意味がありません。低所得者にかかわる社会不安が増大するだけマイナスです。社会の底辺層であるワーキングプアと生活保護世帯の優越を議論しても仕方ないでしょう。憲法25条の生存権「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」に照らし合わせて解決するのが政府の責務です。感情論ですが、生活保護費云々より年金・薬害肝炎と大失態続きの厚生労働省を解体ないし全職員の大幅減給をすべきというのが国民の総意に近いと思います。







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