2008.06.26
グッドウィル廃業-「下流食いビジネス」の蹉跌
グッドウィルが7月をもって廃業となります。
厚生労働省によるグッドウィルの労働者派遣事業の許可取消が不可避となり、事業存続が不可能になってしまいました。
グッドウィル・グループ、7月末にグッドウィルを廃業
グッドウィル・グループ(GWG)は25日、子会社で日雇い派遣事業最大手のグッドウィルを7月末をめどに廃業することを決議したと発表した。
違法派遣問題により厚生労働省から人材派遣事業の許可を取り消される可能性が高くなったため。グッドウィルの中元一彰社長ら取締役4人と執行役員6人が引責辞任する。
グッドウィルは今年1月、二重派遣などで労働者派遣法に違反したとして東京労働局から事業停止命令を受けた。GWGはグッドウィルの事業の他社への譲渡や事業の大幅縮小を検討し、複数の買収希望先と協議を重ねたが合意に至らなかった。6月3日にはグッドウィル従業員が逮捕され、事業譲渡の協議が中断。その後、労働者派遣を巡る違法行為で24日に従業員3人と法人としての同社に対し略式命令が出たことで、人材派遣業の許可が取り消される見込みとなり、事業継続や事業譲渡の可能性が事実上途絶えたと判断した。(ロイター06/26)
グッドウィルの約4100人の内勤社員は全員解雇となります。さらに7000人の派遣登録者も新たな引受先を捜すことになります。
同社の親会社グッドウィル・グループは、外資の金融支援の元で子会社グッドウィルの売却を計画していましたが、交渉は頓挫してしまいました。
コムスン問題
グッドウィル・グループによる数々の問題の発端は、コムスンによる介護報酬不正請求問題です。コムスンは、元々1988年に創業された福岡県北九州市の在宅介護事業者でしたが、1997年にグッドウィル・グループの関連会社になってから、急速に拡大しました。2000年に施設介護事業を開始し、全国展開を進め、わずか5年で業界最大手となります。
2006年、同社の介護報酬の不正請求問題が取りざたされ、各都道府県による立入調査を受けました。06年から翌07年にかけて、青森・東京・神奈川・群馬・兵庫・岡山等で不正が発覚し、各都県当局が指定取消処分を課そうとしましたが、コムスンは事前に廃業届を出して応戦。
この行為が、悪質な「処分逃れ」として、行政側の激怒を買ってしまいました。
最終的には、07年6月6日に厚生労働省から、「全事業所の介護事業所認定の新規認可、更新を2008年度から2011年12月まで停止する」という極めて重い処分を受けました。
介護事業者の指定は6年ごとに更新が必要となります。コムスンの全施設のうち7割が処分期間中に更新時期を迎えますので、事実上の廃業命令です。
これに対して、同社はまたしても「処分逃れ」で対抗します。コムスンの全事業を、グループ内の別会社「日本シルバーサービス株式会社」へ譲渡することを発表しました。
「連結子会社コムスンの事業譲渡に関するお知らせ(PDF)」
一連の騒動は国政レベルにまで拡大しました。官房長官が1民間企業の事業譲渡に対し、否定的なコメントを行うのは極めて異例です。
コムスンの事業譲渡、十分精査が必要=塩崎官房長官
塩崎恭久官房長官は午前の会見で、グッドウィルグループがコムスンの全事業をグループ企業に譲渡すると公表したことについて、「十分に精査をしていかなければいけないと思っている」と述べた。特に「厚生労働省からは、譲渡先の事業所における法令順守の徹底、利用者サービスの確保などが極めて重要であり、こうした事を見極めながら対応すると聞いている」とした。 (ロイター07/06/07)
コムスンは、厚生労働省からも「凍結」の行政指導を受けました。グッドウィル・グループが介護事業を継続することは、不可能になりました。
事業譲渡凍結の方向 コムスン
訪問介護最大手のコムスンが事業所指定の不正取得で厚生労働省から指定打ち切り処分を受けた問題で、同省は7日、同社が7月末を目途に実施するとしたグループ内別会社の日本シルバーサービスへの事業譲渡について、「凍結すべきだ」と指導。コムスンはこれを受け、同日夜、譲渡を凍結する方向で調整に入った。
コムスン広報室は「いろいろな批判も届いている」としており、“処分逃れ”などという非難を受けたことで方針転換を検討せざるを得なくなったとみられる。厚労省の阿曽沼慎司老健局長がコムスンの樋口公一社長を同省に呼び、事業譲渡の凍結を口頭で指導。同日、阿曽沼局長が記者会見して明らかにした。(東京新聞07/06/07)
コムスンは8月から12月にかけて、全事業を売却しました。承継される従業員は、24,000人にも及びます。
コムスン、事業譲渡完了、08年3月末に会社清算へ
グッドウィル・グループは12月3日、子会社コムスンが手がけていた介護事業の譲渡がほぼ完了したと発表した。
12月1日付けで大阪府や福岡県などの在宅介護サービスを、日本ロングライフ、麻生メディカルサービスといった引受先に譲渡した。なおコムスンはすでに11月1日付けで、在宅介護サービスの大半を都道府県別に、施設介護をニチイ学館へ一括して、それぞれ譲渡している。コムスンは今後、高知県土佐市と東京都葛飾区における在宅介護サービスの委託事業を2008年3月末で終了し、会社を清算する見通し。グッドウィル・グループは介護事業から完全撤退し、人材サービス事業を中心に経営の建て直しを進める。(日経BP07/12/03)
居宅介護サービスは、47都道府県ごとに選定し、セントケア・ホールディング等14事業者へ、総額52億6900万円で譲渡しました。
高級老人ホーム6施設はゼクスが360億円で承継、グループホーム183施設と介護付老人ホーム26施設はニチイ学館が210億円で承継しました。
違法派遣問題
コムスンの売却が進む中、グッドウィル・グループのもう一つの主力事業である派遣事業についても、違法行為が発覚します。厚生労働省は、グッドウィルに対して、2~4ヶ月間事業停止の行政処分を行いました。
グッドウィル、違法派遣により事業停止命令
厚生労働省は11日、日雇い派遣大手「グッドウィル」に労働者の違法派遣を繰り返したとして最大4か月の事業停止命令を下した。
グッドウィルは全国に708事業所を保有しており、今後違法行為を直接行った浜松北支店など67事業所が18日から4か月、その他事業所は2か月間、人材派遣行為は行えないことになる。
グッドウィルは2004年10月から2007年6月にかけて、延べ1240人を違法派遣していたという。派遣先から別の会社へ送って作業させる二重派遣や、法律で禁止されている業務への派遣を繰り返していた。
厚労省は、この違法派遣に関わった大手物流会社佐川急便グループの「佐川グローバルロジスティクス」や派遣会社「グローバルサポート」、同「ヴィプランニング」に業務改善命令を出した。また都内の港湾関連会社「東和リース」に関しては、悪質性が高いとして刑事告発した。グッドウィルは「この度の処分を厳粛に受け止め、再発防止に取り組みたい」と述べている。 (IBTimes01/12)
処分はグッドウィルだけでなく、派遣先企業に対しても及んでいます。
なお、同社に登録している派遣労働者数は約34000人ですが、行政処分等で約7000人まで激減しました。
さらに、警視庁の家宅捜索も行われ、刑事事件に発展しました。
二重派遣で一斉捜索/グッドウィル本社など
違法な二重派遣を繰り返していたとして、警視庁保安課は31日、職業安定法違反(労働者供給事業の禁止)の疑いで、港湾運送関連会社「東和リース」や、関連先として日雇い派遣大手「グッドウィル(GW)」、親会社の「グッドウィル・グループ」(いずれも東京都港区)など計約10カ所の家宅捜索に乗り出した。捜索は約100人態勢で、GWの新宿の支店や東和リースの派遣先会社なども対象。厚生労働省東京労働局の告発などによると、東和リースは2005年2月から07年6月にかけ、GWの2つの支店から派遣された延べ29人を、横浜市中区の港湾運送会社などに違法に派遣し、港湾倉庫や船内で働かせた疑いが持たれている。同課はGWの担当者が、労働者が二重派遣されていることに気付いていた可能性もあるとみており、組織的な関与があったかどうかについても調べる。(共同通信01/31)
この家宅捜索を受けて、6月には容疑者の逮捕、会社の書類送検がなされています。
経営体制の刷新
この事態を受けて、現経営陣による経営存続は絶望的となりました。3月には経営陣が更迭され、外資と債権者主導の新経営体制が発足しました。折口会長が退任=米系2社主導で再建へ、経営は新局面-グッドウィル
人材派遣大手のグッドウィル・グループ(GWG)は11日の臨時取締役会で、創業者の折口雅博会長(46)の同日付の退任を決めた。介護子会社コムスン(東京)の介護報酬不正請求や人材派遣子会社グッドウィル(同)の違法な派遣など昨年来、不祥事が相次いでおり、経営責任を取る。川上真一郎社長(44)も退き、後任社長には堀井慎一社外取締役(71)が就いた。折口、川上両氏は子会社の役職も辞任した。同社はまた、米系大手投資ファンドのサーベラスと米証券大手のモルガン・スタンレーが共同出資する投資法人を引受先とする45億円の第三者割当増資を実施。さらに同投資法人はGWGの主取引銀行のみずほ銀行から債権譲渡を受け、そのうち155億円をGWG株に転換する。これによりGWGは、1995年の設立から経営を指揮してきた折口氏の手を離れ、米系2社が主導する形で再建を目指す。(時事通信03/12)
共同出資法人は9000円で500,000株発行します。発行日は4月25日です。同法人のグッドウィル・グループへの出資比率は16.5%となります。A種優先株式については債務の株式化(DES)にて行います。期日は12月ですのでかなり先の話です。優先株を普通株に転換すれば約47%まで高まります。
UT社との抗争
新経営体制に対して、筆頭株主であるユナイテッド・テクノロジー・ホールディングス(UT社)が反発しました。UT社は、技術系の派遣事業を行っており、グッドウィル・グループの経営存続が危ぶまれる中、同社株を買い進めていました。2月5日時点で5%を超え、3月21日時点で発行済株式の30.4%を取得して筆頭株主となりました。
技術者派遣事業は、現在伸びている分野です。グッドウィル・グループ子会社の技術系派遣会社7社の売上合計は1356億円となり、事実上の業界トップとなっています。UT社は、この事業を狙って、経営参画要求を行いました。
しかし、グッドウィル・グループからの返答は「ゼロ回答」でした。
UT社は協議が不調に終わったため、グッドウィル・グループ株を売却する旨を表明していま
グッドウィル:筆頭株主、全保有株売却へ--人材派遣のUT
人材派遣大手のグッドウィル・グループ(GWG)の筆頭株主で製造業向け人材派遣のユナイテッド・テクノロジー・ホールディングス(UT)は28日、保有する全GWG株24.35%を売却する方針を明らかにした。ただ、UTは155億円分のGWGの優先株発行に反対する姿勢を崩しておらず、GWGの経営再建問題の先行きは依然不透明だ。28日開かれたUTの決算説明会で、若山陽一社長は「具体的な時期は未定だが、早く売却して、成長分野に投資したい」などと述べた。23日開かれたGWGの株主総会で、優先株発行の特別決議がUTの反対で先送りされたことについては「(その後GWGから)何の説明もない」などとして、決議に反対の方針を転換しない考えを示した。(毎日新聞05/29)
その後、6月7日の臨時株主総会で、A種優先株を発行する議案が承認されています。
刑事処分
今月に入り、グッドウィル管理職が逮捕されました。グッドウィル、子会社従業員3人が職安法違反ほう助などの容疑で逮捕
グッドウィル・グループは3日、子会社のグッドウィルの従業員3人が職業安定法違反ほう助などの容疑で警視庁保安課に逮捕されたと発表した。グッドウィルは、職業安定法違反事件として刑事告発されている港湾運送関連会社に人材を派遣していたとして聴取を受けている。(ロイター06/03)
報道では「幹部逮捕」となっていますが、企画管理部課長や事業所マネージャー等、担当責任者レベルです。
なお、この件では、派遣先の運送関連会社「東和リース」元取締役も逮捕されています。
法人としてのグッドウィルも書類送検されています。
グッドウィル、二重派遣事件めぐり警視庁が書類送検
グッドウィル・グループは5日、二重派遣をめぐって従業員3人が逮捕された問題で、警視庁が同社を職業安定法違反ほう助などで書類送検したと発表した。同社は、職業安定法違反事件として刑事告発されている港湾運送会社に、人材を派遣していたとして聴取を受けていた。(ロイター06/05)
なお、当時の最高責任者の折口氏は、米国へ「高飛び」するそうです。
あのグッドウィルの折口氏が米国へ「グッドバイ」
介護サービスから「場外追放」されたグッドウィル・グループ(GWG)の創業者、折口雅博・前会長が、苦境のグループを尻目に米国へ「高飛び」する。折口氏は米国永住権(グリーンカード)を家族とともに取得し、夏前にもニューヨークに移住。かの地には自身が出資しているレストランがあり、慶応高校に通う子どもの転入も、すでに手続きを終えたようだ。GWGは主取引銀行だったみずほ銀行に匙を投げられ、その債権は昨年末、米再建ファンドのサーベラスと米大手証券のモルガン・スタンレーに譲渡された。その時点で折口氏は経営責任を取ってグループ関連の相談役に退き、ほとんど影響力を失ったとされる。(FACT05/26)
日雇派遣禁止の流れ
日雇い派遣については、一部の特定業種を除き原則禁止となる見込みです。日雇い派遣は原則禁止 舛添厚労相、検討を表明
舛添要一厚生労働相は13日午前の記者会見で、低賃金などの問題が指摘される日雇い派遣について、「気持ちから言えばやめる方向で考えるべきではないか。かなり厳しい形で考え直すべきだ」と述べ、原則禁止の方向で検討する考えを表明した。夏以降の臨時国会に労働者派遣法改正案の提出を目指す考えも明らかにした。
舛添氏は「職が不安定ということは決して好ましいと思わない。労使の意見を聴いて対応したい」と指摘。同時通訳など専門的な職種を除いて、日雇い派遣の原則禁止を検討していく意向を示した。労使の代表者らが参加する厚労省の労働政策審議会の議論を経て、具体的な内容を詰める見通し。(産経新聞06/13)
グッドウィルは「格差社会」の拡大による最大の利益享受者とみなされていました。創業者の折口氏の優雅な私生活と派遣労働者の苦しい生活とのギャップも鬱積していました。
そこに、数々の違法行為が発覚し、世論の集中砲火を浴びる事になりました。
急速に減少している若年層ほど、非正規雇用の比率が多くなっており、このままでは個人消費の水準も、産業の技術水準の維持にも支障をきたす事は目に見えています。
若者の「車離れ」と言われてますが、車を購入出来ない賃金水準になっているのが実情でしょう。技術も短期間で職場が変わっていては、蓄積されるはずもありません。
ごく少数の「勝ち組」だけで日本の国力を維持するのは無理でしょう。
政府も、非正規雇用の拡大により、国力の衰退が加速する危険性に気づいたようで、ようやく雇用環境の改善に着手しています。
今後のグッドウィル
グッドウィル・グループの経営再建策は、サーベラスとモルガン・スタンレーの支援で財務基盤を強化し、技術者派遣などに経営資源を集中するものです。しかし、当初100億円程度で売却するつもりだったグッドウィルを廃業せざるを得ない状況となり、なかなか思うように再建が進まないようです。12月にみずほ借入金のDESがあるので、倒産する可能性は低いと思いますが(断言はできませんが)、悪材料が発生するたびに暴落を繰り返していますので、投資対象としては今ひとつです。


株価は2日連続ストップ安です。直近の最安値4,980円を維持できるかは微妙なところです。
参考書籍
折口氏自身もわずか3年間で、ここまで転落するとは想像もできなかったでしょう。![]() |
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08.04.30国による労働市場の適正化-遵法強化と内部告発者の保護08.01.07発注者責任への流れー派遣・外注依存型ビジネスの曲がり角
07.12.26グッドウィルの落日-規制緩和バブルの終焉



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