2008.11.12
米新聞社の生き残りへの模索-テクノロジーの進歩と不況が促する質的変化
先週は全米が「オバマ大統領誕生」に沸きましたが、米新聞業界にも「オバマ特需」をもたらしました。
【米大統領選】米紙各地で売り切れ オバマ「記念品」特需
米大統領選から一夜明けた5日、ニューヨークをはじめとする米各地で新聞が売り切れる状態となった。同国史上初の黒人大統領となる民主党のオバマ上院議員の歴史的勝利を伝える新聞を「記念品」として買う人が多いためで、部数減に悩む新聞界にとっては“オバマ特需”となった。
CBSテレビによると、ニューヨーク・タイムズ紙の平日の部数は100万部だが、増刷されたこの日は140万部を完売したという。ミッドタウンにある同紙本社には、ふだんウェブサイトでしか記事を読まない若い世代も含め、新聞を買い求める人の行列ができた。
この日の同紙は一面に大きく「OBAMA」との大見出しが躍り、オバマ氏地元のイリノイ州シカゴで行われた勝利集会の写真が大きく掲載された。同紙によると、海外からの購入希望の問い合わせも多かったという。
タブロイド判のニューヨーク・デーリー・ニューズ紙(約70万部)も10万部増刷されたが、売り切れたという。また、米メディア大手、トリビューンも5日付の新聞を増刷したと発表した。(産経新聞11/06)
「特需」の報道ですが、米出版業界の苦境も伝わってきます。
米新聞社の苦境
現在、米国には約500紙の日刊紙があります。
米国の新聞業界は、紙媒体からインターネット媒体へのシフトによる構造的低迷が続いていました。
そこに、今回の不況が加わって一段と苦しい状況に追い込まれています。
米新聞発行部数 半年間で大幅減
今年4月から9月までの米主要紙の発行部数が前年同期に比べ、大幅に減っていることが新聞雑誌部数公査機構(ABC)が27日発表した統計で明らかになった。ABCによると、日刊紙507紙の発行部数(速報値)は3816万部で前年同期の4002万部から4.6%減少した。
読者、広告とも新聞紙からインターネットの電子版に移行、ネット広告の単価が紙面より安いことや不動産広告の低調を受けて広告収入が全体的に減少したことが部数減の主因になっている。発行部数の多い上位25紙のうち、16紙が5%超減少した。
発行部数全米1、2位のUSA TODAY、ウォールストリート・ジャーナル両紙は前年同期比でそれぞれ170~120部増の229万3310部、201万2000部と横ばいだが、ニューヨーク・タイムズ紙は同3.58%減の100万665部、ロサンゼルス・タイムズ紙は同5.20%減の73万9147部、ワシントン・ポスト紙は同1.94%減の62万2714部。
度々、人員削減を行っているシカゴ・トリビューン紙は7.75%減の51万6032部となった。
AP通信は「中核となる読者層に、より焦点をあてることが広告価値をあげることにもなる」と各紙が個性を持つ必要があるとの米新聞協会幹部の指摘を紹介する一方、経費節減のため大幅な人員削減を行ったり、ページ数を減少させたりしたことが「紙面の質の低下を招いて部数減につながった」との危惧を示す専門家の見方も伝えた。(産経新聞10/28)
米大手新聞社NYタイムズも経営が一段と苦しくなっています。

08年1-3月期は、売上高が7.48億ドル(前年同期比4.9%減)、33.5万ドルの赤字転落。4-6月期は7.4億ドル(6%減)、純利益2100万ドル(82.1%減)です。
7-9決算でも大幅に売上、利益が落ち込んでおり、信用格付けが「投機的」水準にまで格下げとなってしまいました。
NYタイムズ、利益半減=「投機的」に格下げ
米ニューヨーク・タイムズ社が23日発表した2008年7-9月期暫定決算は、米景気減速に伴う広告収入の減少や人員削減などのリストラ費用が収益を圧迫し、純利益は前年同期比51.4%減の652万ドル(約6億円)へと落ち込んだ。売上高も同8.9%減の6億8700万ドル(約670億円)だった。
これを受け、格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は、タイムズ社の信用格付けを「BBBマイナス」から「投機的」を意味する「BBマイナス」に3段階引き下げた。
インターネット普及に加え、景気懸念が強まり、米国では新聞離れが一段と加速。タイムズ社は値上げや紙面構成変更による印刷コスト削減を進めているが、前年同期比14.4%減となった広告収入を補うことができなかった。
一方、オンライン広告収入は伸びており、同社はネット重視のニュース配信に転換しつつある。景気悪化と技術革新で老舗新聞社も大きな変革を迫られている。(時事通信10/24)
さらに、保有資産の評価損が約1億5000万ドル発生する見込みで、年間決算では赤字転落の可能性が強まっています。
リストラの嵐
NYタイムズ
NYタイムズは、ここ数年間、断続的にリストラを行っています。今年初めも編集部門100人を削減しましたが、紙面削減等さらなるリストラを余儀なくされています。
NYタイムズ、6日付から紙面統合 経営環境悪化で
米有力紙ニューヨーク・タイムズは今月6日付紙面から、地域ニュースやスポーツ、ビジネスなど現在数種類ある分冊を統合することを決めた。米景気への懸念が強まるなか、広告収入の減少で経営環境が悪化しているためで、統合による印刷コスト削減などが狙い。
同紙が先月発表した計画によると、改革の対象はニューヨーク市周辺で発行される紙面。地域ニュースの分冊は国際ニュースや国内ニュースを扱う、題字の掲げられた「A欄」に組み入れられ、スポーツの分冊は火曜日から金曜日まではビジネスの分冊に統合されるが、土曜から月曜日まではこれまで通り独立した欄として発行される。
同紙はニュースの量はこれまでと変わらないことを強調するとともに、分冊統合で印刷部門で働く従業員の残業代が大幅にカットされるため、「より効率的な新聞発行」が可能になるとしている。
インターネットの普及による販売部数の減少で米新聞各社は経営難に直面、紙面サイズの縮小や従業員削減で経費節減をはかっている。保守的な論調で知られる地元日刊紙ニューヨーク・サン紙は金融危機のあおりを受け、先月30日で廃刊した。(産経新聞10/03)
ガネット(USA Today)
ガネット社は、米最大の新聞発行会社ですが、業績の悪化に伴って8月に1000人を人員削減しました。米新聞大手のガネット、1000人削減
米新聞最大手で「USAトゥデー」などを発行するガネットは14日、従業員の3%に相当する1000人を削減する方針を明らかにした。広告収入の減少が今後も続くと判断、コスト削減で収益力を高める。
今年8月末までに実施する。400人を定年退職など自然減で、600人を早期退職制度などで削減する見通し。主力のUSAトゥデーは対象外とする。米新聞業界では業績の悪化に伴い、トリビューンやマクラッチーなど大手が相次ぎ人員削減に踏み切っている。(NikkeiNet08/17)
ガネットの08年7-9月期決算は、純利益が1.58億ドルとなり前年同期比で32.5%減少しました。同社は、さらにや10%程度の人員削減を検討しています。

タイム・ワーナー(TIME)
タイム・ワーナーは、1989年に雑誌社タイムと映画会社ワーナー・コミュニケーションズが合併して誕生した大手複合メディア企業です。その後もM&Aにより「CNN」や「AOL」を傘下としています。リストラの波は、1923年創刊「タイム」や1930年創刊「フォーチュン」等の名門誌を発行している出版部門にまで及んでいます。
WSJ-タイム、組織・経営再編へ
米メディア大手タイム・ワーナー傘下の雑誌出版部門タイムは、会社組織と経営を抜本的に改革すると発表した。数百人規模の人員削減の前触れとみられる動きだ。
「タイム」「ピープル」など100誌以上の出版を手がけるタイムは、厳しい業界情勢を背景に機動性を高める必要がある、とした。28日遅くに発表された経営陣の入れ替えに続き、人員削減や事業構造に関する詳細が今後数週間で明らかにされる見通し。
事情筋によると、人員削減数は確定していないものの、幹部らは、世界の従業員(1万人強)の約6%に当たる600人程度にする計画を話し合っているという。タイムの米国内の従業員数は約7000人。人員削減は編集部門と営業部門で実施される見込み。
こうした引き締め策は、読者やマーケティング業者のインターネットへの移行と、広告予算を損なう景気悪化がもたらす打撃に耐えるには改革が必要と、タイムが考えていることを示す。タイムの4-6月期の広告収入は前年同期比9%減少した。同社は、来年に入っても大半の期間で広告収入の低迷が続くと予想している。
この再編により、タイムは米国内の雑誌・ウェブサイト事業を3つの部門に再編する。1つ目の部門がタイムや経済誌「フォーチュン」を手がける。第2の部門はピープルや「エッセンス」などの娯楽出版で構成し、「リアルシンプル」や「コースタルリビング」といったライフスタイル誌は第3の部門が担当する。これまでは大半の雑誌がそれぞれに異なる経営チームと部門を擁していた。
今年初めにタイム・ワーナーの最高経営責任者(CEO)に就任したジェフリー・ ビューケス氏の軌跡をたどる取り組みとなる。タイム・ワーナーは、ビューケスCEOの指揮下でニューヨーク本社のコストを削減し、映画部門をワーナー・ブラザーズに統一した。
タイム・ワーナー株の28日終値は、前日比1.29ドル(14.64%)高の10.10ドル。年初来では40%近く下落している。(ダウ・ジョーンズ10/29)
クリスチャン・サイエンス・モニター
クリスチャン・サイエンス・モニター紙は、ピュリッツァー賞を7回受賞したことがある名門紙ですが、同紙の母体である教会「クリスチャン・サイエンス」から、1210万ドルの支援を受けないと維持できないまでに経営状況が悪化しています。同紙は日刊を諦め、週刊誌となって生き残りを図っています。
米名門紙、週刊に移行 部数減でネットに活路
米名門紙クリスチャン・サイエンス・モニター(本社・ボストン)は28日、部数減による経営難により2009年4月から週刊紙に移行し、購読者には毎日、電子メールでニュースを提供すると発表した。米国の主要日刊紙では初の試みという。今後はインターネットに活路を求め、電子版の充実を図っていく方針。
同紙は1908年創刊で、中東情勢など国際問題の深い分析記事に定評がある。しかし1970年代に20万部以上あった部数が現在では約5万部に落ち込んでいた。一方で同紙の電子版へのアクセスは年々増加、現在では月に500万件に達している。
同紙によると、08年度は既に約1900万ドル(約19億円)の赤字で、ここ数年はスポンサーである教会の支援でしのいでいる状態。週刊紙化で印刷代などコストの大幅削減を見込んでいる。
発行部数調査機関のABCによると、米国の日刊紙の発行部数は08年4-9月は計3816万部と前年同期比で約4.6%の大幅減。(共同通信10/29)
米国版「押し紙」問題
米国で「押し紙」が摘発され、新聞社が多額の罰金を課せられています。これも、新聞社の「経営苦」が背景にあるのでしょう。米新聞社に罰金17億円 部数ごまかしで
ニューヨーク・ブルックリンの米連邦検察当局は18日、発行部数を組織ぐるみで大幅にごまかし不正に広告を販売した容疑をめぐり、同市の新聞社ニューズデー・パブリッシャーが1500万ドル(約17億円)の罰金を支払うことで司法取引に合意したと発表した。
不正により広告費を過剰に支払わされていた広告主への返還金は総額約8300万ドルに上る。検察は、新聞社側が全面的に容疑を認め捜査に協力していることなどから法人として訴追しない。
検察当局の発表などによると、英字紙ニューズデーとスペイン語版の「オイ」は2001年から04年にかけて、平日と日曜版の販売部数を実際より多く、また売れずに返還された数を少なく報告。英字紙では約10万部上乗せ、スペイン語版では倍に水増しした。
ニューズデーを傘下に持つシカゴのトリビューン社が修正して発表した03年のニューズデーの部数は平日平均で48万部台、日曜版は57万部台。スペイン語版は4万5000から5万5000部だった。(産経新聞07/12/19)
「押し紙」とは、新聞社が販売店に買い取りを強制し、配達されないまま古紙業者等に横流し・廃棄される新聞のことです。
販売店にとっては押し紙そのものでは損失ですが、折込広告料を水増しできるためトータルでは利益になります。
広告主に取っては、20万人分の広告料を支払っているのに、10万人にしか渡してないのですから、騙されていることになります。
紙資源も浪費することになりますので、環境にもマイナスです。
日本の「押し紙」は、業界の慣習として広告主が黙認している節もあり、微妙な問題ではあります。
但し、不況が深刻化するに従って広告主が豹変する危険性もあり、環境には明らかにマイナスです。
日本の新聞業界も、問題が大事にならないうちに改善した方が望ましいでしょう。
新聞の変化
かのホリエモンは、「ネットは新聞を殺す」と言い物議を醸しました。個人的には、新聞の宅配システムは非常にありがたいですし、料金も記事の品質も適正だと思っています。
しかし、テクノロジーの進歩と不況の波が、新聞業界にも質的変化を強いていおり、それは日本も例外ではないでしょう。
但し、それは紙をベースとした「新聞」が凋落するに過ぎず、「新聞」そのものはネットや電子ペーパーなどの新媒体を取り込んで、新たなビジネスモデルで発展していくのでしょう。
今はその模索の段階と考えています。
参考書籍
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07.10.23ペーパレス時代への助走




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IT革命の核心を説いた本
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ユーザー(消費者)不在のマーケティング
これからの広告媒体の変遷を客観的に予測している。





It is regretable that newspapers are no more than ever.
更新: 2010.01.8 15:41:30 by Sadao Ohata