2008.12.11
雇用崩壊-勝ち組企業によるリストラの嵐
トヨタやキヤノンなどの「勝ち組企業」が、率先して雇用調整を進めています。
状況対応の素早さが、勝ち組の勝ち組たる所以なのでしょう。
あまりのドライな対応に「派遣切り、非正規切り」という言葉まで生まれています。
中小企業では人的繋がりもあるので、ここまでドライに行動することは困難です。
日本のトップ企業は、グローバル経済の拡大による繁栄を謳歌し、潤沢な内部留保を得ましたが、自国の雇用面でCSR(社会的責任)を果たす意志は乏しいようです。
日本の雇用を、結果として収益力と内部留保に乏しい中小企業が支えることになっていますが、いつまで保つかは予断を許さない状況です。
大手企業の人員削減
キヤノン
昨今の「派遣切り」の中で、最も典型的なのはキヤノンでしょう。請負・派遣1200人削減 大分キヤノン、デジカメ不振
キヤノンのカメラ生産子会社、大分キヤノン(大分県国東市)が製造現場で働く1千人超について、請負会社などとの契約を解除することがわかった。デジタルカメラ販売が伸び悩んでいることに対応する。厚生労働省関係者によると、年内にも実施され、多くの人が職を失うことになる見込みだ。
大分キヤノンが解除を検討しているのは、ライン生産などに従事する請負会社8社(従業員計1131人)との請負契約や、派遣会社13社(計46人)との派遣契約。請負・派遣会社の従業員とも、契約解除が直ちに解雇につながるわけではない。
一方、大分キヤノンはホームページで、自社で直接雇用する期間従業員を募集しているが、人数について親会社のキヤノンは「決まっていない」としている。 <-後略->(朝日新聞12/04)
キヤノンは偽装請負でも問題になったことがあります。
労務問題に関して、一般の日本企業の慣習から逸脱している姿勢が目立ちます。
麻生総理は、日本経団連に対し、雇用維持と賃上げを要請していました。
麻生首相:経団連会長、日商会頭に雇用安定への協力要請
麻生太郎首相は1日、首相官邸で日本経団連の御手洗冨士夫会長、日本商工会議所の岡村正会頭と会談し、雇用環境の改善に関し、(1)雇用の安定(2)賃上げ(3)内定取り消しの回避--の3点で協力を要請した。金融危機を背景とした雇用情勢の悪化を受けたものだが、雇用対策に取り組む政権の姿勢を強調する狙いもあったようだ。
要請に対し、御手洗会長は「雇用の安定維持については経済界としても努力する。内定取り消しについては首相の要請を周知する」と応じた。<-後略->(毎日新聞12/01)
日本経団連会長企業であるキヤノンが、政府要請に逆らって、率先して大量の雇用調整に踏み切るのは、流石に問題でしょう。
ホンダ・東芝
自動車業界の中では比較的堅調だったホンダも期間従業員を削減を発表しました。東芝も断続的に削減しており、人員整理の流れが加速しています。
大手企業で非正規社員の削減相次ぐ ホンダ490人、東芝540人
世界的な景気減速を受け、国内大手企業で非正規従業員を削減する動きが続いている。すでに1万人を超える削減見通しとなっている自動車業界で4日、ホンダが新たに国内4工場で来年1月末までに約490人の期間従業員を削減すると発表した。電機業界でも東芝が同日、約540人を追加削減することが明らかになったほか、キヤノンも1100人以上の請負社員を削減する。
ホンダの削減対象は埼玉製作所(埼玉県狭山市)、浜松製作所(静岡県浜松市)、熊本製作所(熊本県大津町)、栃木製作所(栃木県真岡市)。すでに埼玉製作所では期間従業員270人の削減方針を示しており、これで計760人を削減することになる。
東芝は来年3月末までに半導体を生産する大分工場(大分市)で期間従業員380人を削減するほか、北九州工場(北九州市)でも全派遣社員の8割強にあたる162人と来年以降の契約更新をしなかった。同社は今年7月以降、半導体生産の四日市工場(三重県四日市市)と岩手県北上市の子会社工場でも派遣社員や期間従業員約380人をすでに削減している。(MSN産経ニュース12/05)
外資系企業
日本IBMは、大量に正社員を解雇しています。退職金上積みや再就職あっせんを行うだけ、「非正規切り」よりまともな対応でしょう。
日本IBMの人員削減は1300人でいったん終結
日本IBMが2カ月ほど前から進めていた人員削減プログラムが取りあえず終わった。2008年12月8日付で人事担当役員から各ラインに退職勧奨の停止指示が出たもよう。日経コンピュータの調べでは、1万6000人いる社員の8%に当たる約1300人が応募した。内部目標は最低1000人、最高2000 人だった。
本誌の問い合わせに対して、日本IBM広報は「答えられない」としている。
応募者は原則、年内で退社する。すでに一部では引き継ぎ準備が始まった。今のところ粛々としているが、今後プロジェクトの現場が混乱する恐れもある。
情勢を考慮すると、2009年以降、第2弾、第3弾の人員削減プログラムが発動される可能性は否定できない。「IBMのグローバル基準で考えたとき、日本法人の適正規模は1万2000人」との指摘もある。
今回の人員削減は日経コンピュータが2008年11月13日付の記事で特報。その後、一般紙・誌でも広く話題になった。景気後退による雇用調整が正社員に広がる動きの象徴とする向きもあり、12月5日には国会質問で取り上げられるまでに至った。
業績評価制度「PBC(Personal Business Commitment)」の評価に基づき、1万6000人の社員から候補者を選定。最大で15カ月の退職金上乗せや再就職あっせん会社の紹介といった条件を提示して退職を勧奨していた。その過程では一部ライン管理職が退職を強要する行為があったとの訴えもある。(日経コンピューター12/11)
日興コーディアル証券は、希望退職者を募っています。年収の2倍の割り増し退職金を支払いますので、多数の社員が応募しました。
日興コーディアル証券:1000人以上が希望退職に応募
米金融大手シティグループ傘下の日興コーディアル証券が募った希望退職に、1000人以上が応募していたことが10日、分かった。応募数は全社員約7000人の15%近くに当たる。シティは金融危機を受け、全世界で5万人超の社員の追加削減に着手しており、日本国内で個人向け証券業務を展開する日興コーディアルの希望退職もその一環。
8日に募集を締め切った日興の希望退職は来年3月末時点で40歳以上の社員が対象。定員は設けておらず、応募者全員には年収の2倍程度の割増退職金を支払う予定。
シティは今年1月、日興コーディアルグループ(現日興シティホールディングス)を完全子会社化するなど、本格的に日本でのビジネス展開に着手した。しかし、金融危機の影響で、日本事業の見直しを進めており、日興の社員、役員の削減に加え、日興シティ信託銀行の売却に向け、国内の信託銀行と交渉している。(毎日新聞12/10)
リストラの手法としては、金銭でインセンティブを高めるのが最も合理的です。
雇用関連統計の遅行性
完全失業率は、10月時点でほぼ横ばいです。10月失業率3・7%に改善 求人倍率は低下0・80倍
総務省が28日発表した10月の完全失業率(季節調整値)は、前月より0.3ポイント改善の3.7%で、2カ月連続で低下した。
厚生労働省が同日発表した求職者1人に対する求人数を示す10月の有効求人倍率(同)は、前月比0.04ポイント低下の0.80倍で、9カ月連続で悪化した。
男女別の失業率は、男性が0.2ポイント改善の3.9%、女性は0.4ポイント改善の3.5%だった。完全失業者数は、前年同月比16万人減の255万人。(共同通信11/28)

失業率が上昇しないのは2つの理由によります。
1つは、完全失業者の定義が厳格なためです。
仕事が全くなく(小銭稼ぎも出来ない)、いつでも仕事ができる状態で、職安を通じて仕事を探すという3条件を満たす必要があります。
もう1つは、タイムラグによるものです。
解雇予告から実際に解雇されるまで1ヶ月程度の期間がありますし、解雇状態になってから離職票発行を受け、さらにハローワークが失業状態と認める期間もあります。
非正規社員の解雇が多発したのは10月以降になりますので、統計上の失業増が認識されるのは、12月からでしょう。
なお、総務省の就業者数は、失業率より先行性が見られます。

広がる自力救済の動き
政府の後手の対応では間に合わず、労働者による自力救済の動きが広がっています。「生活の糧」と「住居」が突然なくなるのですから、抵抗するのは当然です。
当事者にとっては、命に関わる問題です。
大分キヤノン:1カ月分賃金補償を 派遣従業員申し入れ
大分キヤノンの人員削減に伴って請負会社から解雇予告通知を受けた社員で結成した労働組合「日研総業ユニオン大分キヤノン分会」の組合員ら7人が10日朝、大分県国東市の大分キヤノンに申し入れをした。解雇される派遣・請負従業員に30日分以上の賃金補償や、次の仕事が見つかるまでの間、同社の期間社員用の寮を一時提供することなどを求めている。
同分会会長のほか、支援する全日本建設運輸連帯労組の幹部らも同行。申し入れ書の受け取りを求めたが、同社側が工場敷地内への立ち入りを断ったため正門前で同社の安岐総務課長に手渡した。
同分会は、請負会社・日研総業の社員のうち、大分キヤノンで働く社員十数人で結成した。分会長も、日研総業との間で09年1月30日までの雇用契約を結んでいたが、11月10日に解雇通知を受けた。解雇日は12月10日で「3日以内に寮からも出ていくように求められている」という。
分会長は、川崎課長に対し「すぐに寮を出ていかなきゃならないんですよ。私たちの大変さが分かっているのか」と訴えた。(毎日新聞12/10)
キヤノンの企業理念は「共生」ですが、理念を喪失してしまったようです。
せっかくの「CSR報告書」も「企業理念」も、行動が伴わなければ全く無意味です。
いすゞでは、期間工が裁判所に対して解雇予告の効力停止仮処分を申請しています。
解雇予告に効力停止仮処分申請 いすゞ工場の期間従業員
金融危機による減産を理由に不当な解雇予告を受けたとして、いすゞ自動車藤沢工場(神奈川県藤沢市)の20-40代の期間従業員3人が9日、解雇予告の効力停止などを求める仮処分を横浜地裁に申し立てた。
弁護団の杉本朗弁護士によると、3人は藤沢工場に2-4年間勤務。「一方的な解雇通知は、期間従業員の保護も目的とした労働契約法の趣旨に反する」と主張している。
いすゞ自動車は11月、藤沢工場と栃木工場(栃木県大平町)の派遣社員と期間従業員の計約1400人に12月下旬の解雇を通知。栃木工場の期間従業員は今月4日、宇都宮地裁栃木支部に同様の申し立てをした。
栃木工場の期間従業員らは今月3日、「全日本金属情報機器労働組合いすゞ自動車支部」を結成。同労組神奈川地方支部によると、解雇通知を受けた2工場の期間従業員は、大半が来年3月か4月までの契約が残っているという。(東京新聞12/09)
景気の悪化が深刻化するのに伴って、今後労働運動が活発化する恐れがあります。
マツダ:防府工場、派遣社員500人削減 工場前で県労連が抗議行動 /山口
マツダ防府工場(防府市)の派遣社員約500人の年内削減計画を受け県労連(藤永佳久議長)は10日、同工場の正門前で、計画の再考を求める宣伝行動を起こした。「雇い止め・解雇は不法・不当」などと書かれた横断幕を掲げ、「大企業の社会的責任を果たして」などと訴えた。
出勤に合わせ午前7時半から行動を開始し、労働共済制度などを紹介するチラシを配布。マイクで「業績アップに貢献してきた人たちをボロぞうきんのように使い捨てにするなど身勝手すぎる」と抗議した。12日には県内5カ所の労働相談センターと協力し「全国いっせい派遣・非正規労働ホットライン」に取り組む。(毎日新聞12/11)
社会的責任を回避した優良企業
優良企業には、研究開発面・税制面・工場誘致面等様々な優遇施策が与えられています。これは、日本の産業界をリードし、雇用を確保することで国の発展に寄与する事が期待されているからです。
しかしこの状況では、優良企業が利益を上げて内部留保を積みましても、日本の国全体としてプラスにならないのでないかと、疑念を抱く国民が増加することになります。
いくら平時に税制等で優遇しても、「有事」の際に期待した役割を回避するようでは、優遇策の見直しを求める動きがでるのは避けられません。
今年は、個人の格差問題がクローズアップされましたが、今後は「企業の格差問題」が議論されることでしょう。
参考書籍
労働政治ー戦後政治のなかの労働組合 (中公新書 (1797))
著者/訳者:久米 郁男
出版社:中央公論新社( 2005-05-26 )
定価:¥ 840
Amazon価格:¥ 840
新書 ( 271 ページ )
ISBN-10 : 4121017978
ISBN-13 : 9784121017970
著者/訳者:大内伸哉
出版社:弘文堂( 2007-07-05 )
定価:¥ 2,940
Amazon価格:¥ 2,940
単行本 ( 312 ページ )
ISBN-10 : 4335353952
ISBN-13 : 9784335353956
参考記事
- 08.11.20人員削減を急ぐ自動車業界-需要縮小が加速する世界市場
- 08.04.30国による労働市場の適正化-遵法強化と内部告発者の保護
- 08.02.27リストラが始まった-徐々に広がる景気後退の兆し
- 07.11.20世界で頻発する労働争議-原因は社会保険








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