2009.02.16
小泉構造改革の終焉-同じ政権内での政策転換
小泉構造改革において、「小さな政府」「規制緩和」「官から民へ」「中央から地方へ」というスローガンの元、新自由主義的な経済政策が導入されました。
小泉後の阿部政権・福田政権は、基本的に小泉路線の継承した内閣でした。
麻生政権も当初は、構造改革路線を継承しました。
しかし、昨年末以降から徐々に路線転換の言動を増やし、今年に入ってからは「小泉構造改革」を明確に否定しています。
麻生総理は発言がブレると批判を受けていますが、本人にしてみれば、政治スタンスの根本を転換している(元に戻している)最中では、多少整合性を欠いてもやむを得ないのでしょう。
かんぽの宿
構造改革路線からの転換で、最も象徴的なのは、「かんぽの宿」の扱いでしょう。既に決まっていたことを、所轄官庁のトップ(総務大臣)がひっくり返すという、非常に荒っぽい形になりました。
経緯
元々「かんぽの宿」事業は、2012年9月末までに廃止・譲渡することが法律で決まっていました。昨年3月には処分の具体的スキームが決まり、当初の予定では10月には譲渡契約が行われることになっていました。
参考:2郵政民営化-進む実体としての民営化(2008年4月22日)
譲渡が決まったのは、昨年12月26日で、相手先はオリックス不動産です。
「かんぽの宿」一括譲渡 オリックスに、雇用を最優先
日本郵政は26日の取締役会で、全国展開する宿泊・保養施設の「かんぽの宿」70施設を同社の運営事業部門ごと、来年4月1日付でオリックスに一括譲渡することを決めた。譲渡額は明らかにしていないが数百億円規模とみられ、非正規労働者を含む従業員約3200人の雇用はすべて引き継ぐ
かんぽの宿は、郵政民営化から5年後の2012年9月までの譲渡または廃止が決定済みで、日本郵政は譲渡先の公募、選定作業を進めていた。日本郵政側は「雇用確保を最優先に譲渡先を決めた」としている。
結婚式場やコンサートホールを併設する東京都品川区の「ゆうぽうと」は今回の譲渡の対象外。
かんぽの宿は郵政民営化前の簡易保険加入者を対象とした保養施設だったが、旧郵政省幹部の天下りや各地の旅館業者らの「民業圧迫」に対する反発もあり、旧日本郵政公社時代から不採算施設の廃止や売却を段階的に進めていた。(共同通信08/12/26)
年明け早々、この譲渡に関し、鳩山総務大臣がクレームをつけ、一気に政治問題化します。
オリックス譲渡は再考を 鳩山総務相、かんぽの宿で
鳩山邦夫総務相は6日夜、日本郵政が宿泊・保養施設の「かんぽの宿」70施設を、オリックスグループに一括譲渡する方針に関して、オリックスの宮内義彦会長が郵政民営化の検討にかかわったなどとして、再考を求める考えを表明した。鳩山氏は都内のホテルで記者団に「(譲渡は)出来レースと受け取られる可能性がある。考え直してもらいたい」と述べた。
さらに「人気の高いところは地域の資本が買って観光や、地域振興に生かすという方が正しいのではないか」と譲渡先の変更も視野に入れていることも明らかにした。
鳩山氏は、宮内氏が政府の規制改革・民間開放推進会議や総合規制改革会議の議長を務めたことなどを指摘。譲渡先選定についても「分かりにくい。どういう選び方をしたのか透明でない」として調査する考えを示唆した。その上で「(譲渡を認可しない可能性も)十分ある」と述べた。
鳩山氏は「言われている譲渡価格はえらく安い。今の金融や経済状態で焦って売るのはいかがか。なぜ一括譲渡なのかも疑問」と問題点を列挙。「国民共有の財産だから、一点の曇りもあってはならない」と強調した。(共同通信01/06)
その後、「かんぽの宿」に関する取引が、「疑惑の取引」として連日報道されました。
鳥取県岩美町の「かんぽの宿」が1万円で売却され、1年も経たず6000万円で転売されたこと。
鹿児島県指宿市の「かんぽの宿」を1万円で購入した業者が、4ヶ月後に5%分の土地を1500万円で転売したこと。
日本郵政が「かんぽの宿」などの売却にあたり、財務アドバイザーのメリルリンチ日本証券に対し、譲渡完了後に最低6億円の成功報酬を支払う契約を結んでいたこと。
さらに、かんぽの宿70施設の土地代と建設費が2400億円と公表されます。
かんぽの宿2400億円 70施設の土地代と建設費
日本郵政がオリックス不動産に約109億円で一括売却する契約を結んだ全国70の宿泊・保養施設「かんぽの宿」の土地代と建設費が、計約2400億円に上ることが28日、民主党の総務部門会議で明らかになった。
日本郵政によると、かんぽの宿70施設の用地取得費は計約295億円、建設費は計2107億円だった。かんぽの宿をめぐっては鳩山邦夫総務相がオリックス不動産への売却に疑問を示しており、売却価格が妥当かどうかあらためて論議を呼びそうだ。
また郵政民営化前の旧日本郵政公社が、かんぽの宿を1万円で売却した事例があったことも明らかになった。1万円の値が付いたのは、2007年3月に売却済みの「鳥取岩井簡易保険保養センター」(鳥取県岩美町)と「指宿簡易保険保養センター」(鹿児島県指宿市)。それぞれ、07年度は2670万円と4630万円の赤字で、社宅や郵便貯金会館(メルパルク)などと一括で競争入札を実施し、民間落札者がかんぽの宿についてはいずれも1万円と評価した。(共同通信01/28)
その後も、日本郵政は総務省から入札資料の提出を求められる等の圧力を受け、2月13日には白紙撤回を余儀なくされます。
「かんぽの宿」譲渡、白紙撤回を表明=日本郵政社長、進退に言及せず
日本郵政の西川善文社長は13日、総務省で鳩山邦夫総務相と会談し、保養・宿泊施設「かんぽの宿」をオリックス不動産に一括譲渡する契約を白紙撤回する方針を伝えた。オリックスの宮内義彦会長とも合意、両者の合意を受け、同社側も同日、契約解除を発表した。西川社長から、この問題で進退についての発言はなかった。総務相が会談終了後、記者団に明らかにした。
総務相は契約の白紙撤回について「当然のこと」と指摘。16日を期限とする郵政からの報告を基に「国民の疑念を徹底解明することが重要」と強調した。また、「西川社長には疑念を解明する責任もある。黒い雲を晴らすために一定の役割を果たしてほしい」と期待を示した。(時事通信02/13)
契約の是非
まず譲渡価格ですが、事業物件の場合、建設費の多寡は意味がありません。いくら資金を投入しても、収益が上がらなければ価値はゼロです。
「かんぽの宿」は、毎年50~60億円の恒常的赤字事業です。さらに民間資産となれば固定資産税も課せられ、実質赤字はより大きくなります
オリックス側の条件には、雇用維持も盛り込まれており、109億円の譲渡価格も安いとは断言できない水準です。
安い高い云々より、宿泊施設の膨大な資金を投入した過去の当事者の責任の方が重いでしょう。
「民業圧迫」と言われるのも当然です。
譲渡の経緯も、スケジュールは昨年3月には公表されており、「焦って売っている」訳ではありません。むしろ、9~10月の世界的金融動乱の影響で遅れた感があります。
民間企業なら、赤字の非中核事業を早急に処分するのは、当たり前の経営判断です。
一括譲渡も従前から決まっていることで、問題視するほうが不自然です。
完全な透明性を担保するため、「年金福祉施設(RFO管理)」の様に公開入札とする方法もありますが、それには「物件売却」が前提で、事業と雇用の維持を付帯条件とするのは無理です。
今回の「かんぽの宿」問題は、経済的問題ではなく政治的問題なのでしょう。
郵政民営化
「改革の本丸」と言われた「郵政改革」ですが、基本スキームが揺らいでいます。驚くべきことに、麻生総理は「私は民営化に反対」と明言しています。
郵政4社体制、首相が「見直すべき時に来ている」
麻生首相は5日午後の衆院予算委員会で、民営化した日本郵政グループについて、「四つに分断した形が本当に効率としていいのかどうか、見直すべき時に来ている」と述べ、将来的には4社体制の見直しが望ましいとの考えを明らかにした。
民主党の筒井信隆氏の質問に対する答弁。政府高官は同日、首相発言について「本当に4分社化を見直すなら法律を変えないといけないほどのことだ。(官邸内では)そんな話は全然出ていない」と語り、将来的課題に言及したとの見方を示した。首相も同日夜、記者団に「(政府の郵政民営化委員会で)検討していただいている。委員の諮問の答えを受け取るのが私の立場」と述べ、同委員会の諮問を尊重する考えだ。
自民党のプロジェクトチームは、3年ごとの見直しをする政府の民営化委員会に対し、当面は4社体制で運用を効率化し、法改正を伴う4社体制の見直しは将来の検討課題とする案を近く提言する。
首相はさらに、自ら総務相を務めていた小泉内閣で民営化を決めたことについて、「賛成ではなかったが、内閣の一員だから最終的に賛成した。(民営化)担当(大臣)は、私は反対だとわかったので外された。担当相は竹中さんだということは、ぜひ記憶して」と述べた。(朝日新聞02/05)
麻生総理は、その後発言を訂正していますが、わざと発言を揺らしながら、徐々に政策転換を行うのが麻生流のスタイルなのでしょう。
当然、国民・マスコミからは批判されます。過去の発言と対比すれば「2枚舌」と言われても仕方ありません。
経済悪化と相まって、支持率はとうとう1桁台です。
内閣支持率、10%切る=日テレ調査
日本テレビが15日明らかにした世論調査結果によると、麻生内閣の支持率は9.7%に落ち込んだ。郵政民営化をめぐる麻生太郎首相の一連の発言もあり、支持率は低下傾向が続いているが、主要な報道機関の調査で10%台を切ったのは初めて。(時事通信02/15)
三位一体改革
小泉構造改革の目玉の一つだった、「三位一体の改革」についても見直しの方向です。鳩山総務相:「三位一体、失敗も」 交付税増額検討へ
鳩山邦夫総務相は12日の衆院本会議で、小泉政権が進めた国と地方の税財政を見直す「三位一体の改革」について「急激にやりすぎた。失敗の部分がある。地方をここまで苦しめているのは、三位一体改革が必ずしも正しくない部分があったからと考える」と述べ、改革の副作用を認めた。担当閣僚の総務相がマイナス面に言及するのは異例。
原口一博氏(民主)の「三位一体改革で地方が疲弊している」との質問に答えた。鳩山氏は「地方交付税の算定(方法)を検討すべき時に来ている」と述べ、交付税増額が必要との認識を示した。
民主党がこの日の衆院本会議開催に反発し、質問内容を事前通告しなかったため、鳩山氏はアドリブで答弁。このため「失敗」という表現に踏み込んだと見られる。鳩山氏はその後の答弁で「改革すべては否定していない。地方税財政改革の第一歩で、いい部分も大きければ影の部分も強い。09年度(予算案)は規定とは別枠で交付税を1兆円増額した」と軌道修正した。
税制改正法案などの09年度予算関連法案は12日の衆院本会議で、趣旨説明と質疑をして審議入りした。税制法案には消費税引き上げ方針が盛り込まれている。(毎日新聞02/13)
「三位一体の改革」とは、国と地方自治体間の財源配分を見直すものです。
次の3つの改革を同時に行うので三位一体の改革と名付けられました。
1.地方への税源移譲
2.国庫補助負担金(国の資金で行う地方の事業)の削減
3.地方交付税(国から地方への移譲金)の削減
小泉構造改革の目玉の一つで、「小さな政府」と「地方分権」を目指すという趣旨でした。
しかし、実質は国の財政赤字を地方に負担させたに過ぎず、地方財政の悪化と地域格差の拡大という弊害を生み出しました。
なお、改革が行われた当時の担当大臣(総務相)は麻生総理で、その意味でも波紋を呼んでいます。
構造改革からの政策転換
実は、麻生総理は、昨年11月の時点で、郵政見直しについて言及していました。郵政株売却を凍結=自民、民営化見直し検討-麻生首相
麻生太郎首相は19日夜、政府が2010年度に予定している日本郵政グループの株式売却を当面凍結する意向を明らかにした。これを受け、自民党は、衆院で継続審議となっている野党3党提出の郵政民営化見直し法案を修正する方向で調整に入った。ただ、株売却凍結は小泉純一郎元首相が進めた郵政民営化の見直しにつながりかねず、党内の構造改革派などの反発は必至だ。
郵政民営化法は、(1)政府が保有する持ち株会社「日本郵政」の株を早期に売却(2)4分社化された郵政事業のうち「ゆうちょ銀行」と「かんぽ生命保険」の株を17年9月末までにすべて売却-すると規定。政府は、この3社を10年度に株式上場する計画だ。(時事通信08/11/19)
このときは、批判を受けると「政策転換ではない」「株を安く売らないのは当然」などと釈明していました。
しかし麻生総理は、1月28日の施政方針演説のなかで、小泉構造改革路線からの決別を鮮明にします。
施政方針演説:麻生首相、小泉構造改革路線から転換
麻生太郎首相は28日午後、衆参両院本会議で就任後初の施政方針演説をした。景気対策を喫緊の課題と位置付け、「世界で最初にこの不況から脱出することを目指す」と表明。小泉構造改革路線について「官から民へといったスローガンや、大きな政府か小さな政府かといった発想だけでは、あるべき姿は見えない」と指摘し、路線転換を明確にした。消費税率の引き上げ時期については、経済状況の好転を前提に「2011年度までに必要な法制上の措置を講じる」と触れ、実施時期の明言は避けた。<-後略->(毎日新聞01/28)
11月のコメントは、失言ではなく「本意」でした。
構造改革派の凋落
一方、構造改革派の実質的トップの小泉元総理も、麻生総理を痛烈に批判しています。「笑っちゃうくらいあきれた」=郵政見直し発言、首相を批判-自民・小泉氏
自民党の小泉純一郎元首相は12日午後、党本部で開かれた有志議員による「郵政民営化を堅持し推進する集い」であいさつし、民営化をめぐる麻生太郎首相の一連の発言について「怒るというより、笑っちゃうくらいただただあきれている」と批判した。また、定額給付金の支給を裏付ける2008年度第2次補正予算の関連法案に触れ「(衆院の)3分の2を使って(再可決して)でも成立させないといけないとは思わない」と述べ、執行部に慎重な判断を求めた。
「民営化に賛成でなかった」などと国会で答弁した首相に対し、党内の改革推進派を中心に反発が広まっている。小泉氏は、公明党主導の給付金への不満が残る党内の空気も踏まえ、首相を痛烈に批判した形で、政権内部の亀裂が鮮明になった。
小泉氏は「首相の発言に信頼がなければ、(衆院)選挙は戦えない」と指摘。10日に首相から電話があったことを紹介し「これから戦おうという人に、首相が前から鉄砲を撃っている。発言には気を付けてと言っておいた」などと語った。このほか、民営化法案が参院で否決されて衆院を解散した小泉氏を「奇人変人」と首相が指摘したことにも「自分では常識をわきまえた普通の人だと思っている」と不快感を示した。
「集い」は昨年12月9日以来の開催で、今回は役員メンバーだけに参加を呼び掛けた。小泉氏のほか、首相の政策に批判的な中川秀直元幹事長や武部勤元幹事長、石原伸晃幹事長代理、小池百合子元防衛相ら17人が出席した。中川氏も「民営化法案は4分社化を含む法案だ」とあいさつ。05年の衆院選で4分社化は主な争点ではなかったとする首相に反論した。(時事通信02/12)
2次補正関連法案の対応についても含みを待たせており、「党内抗争」の様に見えます。
但し、小泉氏は既に引退を表明しており、政界への影響力は限定的でしょう。
構造改革派は、政治基盤が弱いため現在の低支持率が続けば、次回の衆院選で大部分が落選することになります。
伝統的自民党である現執行部は、党内の異分子を排除した上で、「次の次」を考えているのかもしれません。
日本の政策転換
米ブッシュ前大統領の時代、新自由主義的経済が世界中に急速に広まっていました。小泉政権の構造改革は、この流れに沿ったものでした。
しかし、オバマ政権誕生で米国の経済政策が転換し、経済に対する国家の関与が強まっています。
日本政府・自民党の露骨なまでの政策転換も、米国の政治を反映したものなのでしょう。
参考書籍
著者/訳者:内山 融
出版社:中央公論新社( 2007-04 )
定価:¥ 861
Amazon価格:¥ 861
新書 ( 258 ページ )
ISBN-10 : 4121018923
ISBN-13 : 9784121018922
著者/訳者:上杉 隆
出版社:ダイヤモンド社( 2009-01-30 )
定価:¥ 1,500
Amazon価格:¥ 1,500
単行本 ( 270 ページ )
ISBN-10 : 4478008191
ISBN-13 : 9784478008195
参考記事
- 09.02.04保護貿易主義的政策の復活-自由貿易体制の修正
- 08.12.03バーチャル景気対策-総理大臣の言葉の軽さ
- 08.04.22郵政民営化-進む実体としての民営化
- 07.10.15年金施設約350件を2000億円売却へ、粛々と解体される社会保険庁
- 07.10.01世界最大のゆうちょ銀行誕生と未だ横並びの既存銀行








トラックバック URL
コメント & トラックバック
Comment feed
コメント