新薬開発への期待-大日本住友製薬



今年1月に、大日本住友製薬が開発中のがん治療薬が報じられました。
がん再発防止の新薬 臨床試験申請へ
がんを作り出すと考えられている細胞「がん幹細胞」を直接攻撃し、がんによる死亡の大きな原因となっている再発を防ぐ新薬を実用化しようと、大阪の製薬会社が近く臨床試験の申請を行うことが分かりました。新薬が誕生すれば、がん幹細胞をターゲットにした世界初の薬になるということです。
大阪中央区の大日本住友製薬は、大腸がんのがん幹細胞をターゲットにした新薬の開発を北米で進めていて、日本でも新薬の承認を目指し、今年3月末までに厚生労働省に臨床試験の申請を行うことが分かりました。 「がん幹細胞」は、この十数年ほどの間に大腸がんのほか、乳がんや肝臓がん、胃がんなどで次々と報告されていて、抗がん剤や放射線治療が効きにくいなどの特徴から再発を引き起こし、がんによる死亡の大きな原因になっているとされています。
今回の新薬は、がん幹細胞に特有のタンパク質の働きを止め、細胞を死滅させる効果があるということで、北米で行った臨床試験では、重い副作用がないことやがん細胞の増殖を抑える効果が確認できたということです。 新薬が誕生すれば、がん幹細胞をターゲットにした世界初の治療薬になるということで、大日本住友製薬では、「順調にいけば、アメリカとカナダでは平成27年に、日本では翌28年に販売が開始できるようにしたい」と話しています。(NHK 2012/1/24)

今までの抗がん剤は活発に増殖しているがん細胞には効果がありますが、がん細胞を生み出す大元である「がん幹細胞」を直接叩くことはできませんでした。
同社の新薬は、世界初のがん幹細胞を攻撃できるものです。
この手の新薬話は海のものとも山のものともつかないレベルの話が多いのですが、今回の件は、臨床試験の申請も間近であり、同社の事業戦略の根幹に関わる話ですのでかなり期待しています。

開発薬とスケジュール
開発薬はBBI608とBBI503で、開発は前者が進んでおります。
BBI608の効果は、2010年4月の米国癌研究会議(AACR)での発表によりば、フェーズ1試験において進行がん患者16名うち患者12人が抗腫瘍効果の評価が可能で、1人が微少奏効(MR)、8人が安定状態(SD)となった。3人の患者では16週を超えるSDが得られた。また、新規に転移巣が生じたのは1人だけでした。
また、副作用は一般的に穏やかで、グレード3以上の副作用は下痢と倦怠感の2件だけで重篤な副作用を発現した患者はいなかったそうです。
なお、BBI608は、米国・カナダで今年1月からフェーズ3試験が始まっております。

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発表への経緯
今回の発表の伏線は、1年前の大日本住友製薬による、アメリカの創薬ベンチャー企業BBI社買収に遡ります。
【大日本住友製薬】米BBIを買収‐癌領域を一層強化
 大日本住友製薬は2月29日、癌領域を専門とする米国バイオベンチャー・ボストンバイオメディカル(BBI)の買収に合意したと発表した。BBIは、癌幹細胞に作用する低分子経口剤のBBI608(PIII準備中)やBBI503(PI)などの有力なパイプラインを持つ。2015年に北米上市を目標とするBBI608について多田正世社長は、「既存の抗癌剤とは異なる癌幹細胞に作用するメカニズムを有するため、癌の根治薬としての期待が大きい」「両剤ともにブロックバスターになる可能性が高く、ポストラツーダとして考えている」と述べた。
 買収に当たって大日本住友は、BBIに株式買収の対価として2億ドルを支払うと共に、将来、両剤の開発マイルストンとして最大5億4000万ドル支払う。販売後には、売上高に応じた販売マイルストンとして、年間売上高が40億ドルに達した場合には、合計で最大18億9000万ドル支払う。
 多田氏は「癌はCNSに次ぐ当社の重点領域」とした上で、BBI買収メリットとして、「癌領域の革新的な開発パイプラインの獲得」と「継続的に抗癌剤が創出できる優れた創薬プラットフォームと開発力の獲得」を挙げた。
 抗癌剤の開発パイプラインでは、BBI608とBBI503の日本、北米での独占的権利を獲得した。
 現在、北米でBBI608が大腸癌のPIII試験準備中、各種固形癌ではPIb/II試験段階、BBI503は進行性の固形癌に対してPI試験段階にある。
 一方、大日本住友の国内での癌領域の取り組みとして、京都大学とのDSKプロジェクトや、中外とWTIペプチドを用いた治療用癌ワクチンWT4869共同開発などを進めている。多田氏は「成果が出るまでに、もう少し時間がかかる」と説明。
 今回の抗癌剤の創薬プラットフォーム獲得について、「BBIの癌研究に関する人材やノウハウを非常に高く評価している」と強調し、「現在、従業員は30人だが、研究者の増員を図りたい」とすると共に、「日本の研究所の人材を米国に派遣する」考えも明かした。
 また、米国での抗癌剤の販売戦略については、「典型的なスペシャリティ領域で、多くのMRを必要としない」と明言。「販売体制の構築は、13年後半からスタートする」計画を示した。(薬事日報2013/3/2)

この数年、大日本住友製薬は業績は大きく悪化していました。
大日本住友製薬の業績推移
同社は、2005年10月に大日本製薬と住友製薬が合併した会社です。
合併当初の売上は3162億円でしたが、経営基盤が国内市場中心だったため成長性が乏しく、近年では主要製品の特許切れが相次いだためジェネリック薬品に押されて収益性も悪化していました。

その「ジリ貧」の中で起爆剤になったのが、米国創薬ベンチャーの買収でした。
想像ですが、BBIには三井物産系のファンドも投資していたことや、大日本住友製薬が昨年ノーベル賞を受賞した山中教授との関係が深いことから、創薬のうえでシナジー効果が期待できること等も背景にあったのかもしれません。

さらに同社は、2012年9月に組織変更を行い、がん創薬体制を強化しました。
組織変更(「がん創薬研究所」新設)のお知らせ
大日本住友製薬株式会社(本社:大阪市、社長:多田 正世)は、9月1日付けで、がん(オンコロジー)領域に特化した組織として「がん創薬研究所」(英語名称:DSP Cancer Institute)を新設しますので、お知らせします。
がん領域の研究開発は、近年、サイエンスの進展に伴い急速に進歩しています。また、アンメット・メディカル・ニーズの高い本領域には、製薬各社が参入しており、競争が非常に激しい領域であることから、迅速かつ柔軟な意思決定が必要となります。このため、研究本部から独立した社長直轄の組織としてがん創薬研究所を新設することとしました。
がん創薬研究所における創薬研究の指揮は、当社の米国子会社であるBBI社のPresident, Chief Executive Officer, Chief Medical Officerであり、当社グループのHead of Global OncologyであるChiang J. Li(チャン・リー)が行います。また、がん創薬研究所の新設と同時に、既存の「オンコロジー事業推進室」の機能を強化することとし、オンコロジー事業推進室がオンコロジー領域における研究開発を一元管理するとともに、がん創薬研究所の運営管理を行います。 がん創薬研究所の新設およびオンコロジー事業推進室の機能強化により、当社におけるがん領域の研究開発組織および戦略組織体制を再構築し、革新的な抗がん剤の創出を目指します。
なお、BBI社は、2012年内に米国マサチューセッツ州ケンブリッジにおいて、従業員100名規模のグローバルながん研究開発拠点を新設する予定です。(大日本住友製薬NewsRelease2012/8/20)
具体的には、がん(オンコロジー)領域に特化した「がん創薬研究所」を新設します。
そして、人員を100名に増員して開発体制を強化し、責任者にはBBIのトップが就任し、さらに社長直轄とすることで迅速かつ柔軟な意思決定が行えるようにするなど、がん創薬に経営資源を集中させようとする強い意思が伺えます。

経営への影響
BBI社は従業員30名、資本金5.2億円で売上を生み出していないベンチャー企業です。
そこで、BBI社買収には、いわゆる「リアル・オプション」を採用してリスク低減を図っております。
為替レートを1ドル90円とみると、買収時の対価は約180億円です。そして開発が成功し売上が伸びれば最大1700億円まで払うことになっております。
もし開発が頓挫しても同社の損失は180億円で済み、開発が成功すればその利益はBBI社の既存株主にも恩恵をもたらすので、早期の買収にも有利になると、一石二鳥の方策です。

同社は、今年2月のIRにおいて、2017年度にはがん事業から8億ドル(720億円)の収入がもたらされるとの予想を発表しています。
現在の売上の2割の規模ですので、同社にとっては企業の盛衰に関わる水準です。

大腸がんで使われている主要な抗がん剤の市場規模は(為替1ドル90円、1スイスフラン100円)、
  • カペシタビン(ゼローダ)     世界1523億円、日本100億円
  • オキサリプラチン(エルプラッド) 世界384億円、日本252億円
  • ベバシズマブ(アバスチン)    世界5190億円、日本564億円
すなわち、新薬により市場シャアを塗り替え、がん治療薬の主要企業になろうと同社が目論んでいることがわかります。
さらに、日本にとっても薬品の輸入比率の減少につながりますので良いことと言えます。


なお同社の株価は、2011年度决算を受け(純利益が昨年の約半分)て大きく下がりました。
その後、日本の株価全体の底打ちもあり上昇に転じていましたが、今年1月の報道以降は急騰し注目度が高い銘柄となっています。
大日本住友製薬の株価推移
新薬により、同社の経営状況が一変する可能性があるので、投資家が注目するのも当然でしょう。
「金儲け」や「ビジネス」にネガティブな反応を示す方もおり、確かに開発競争が薬価高騰を加速するという負の側面もあります。
それでも、がん新薬開発が企業や国に莫大な利益をもたらすなら、優秀な人材も集まり、開発期間も一層短縮しますので、患者にとってはありがたい話だと思います。

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